ゴルギアス

自分自身に関することも、国家に関することも、すべてをこの目 的に傾注しながら、いやしくも仕合せになろうとするなら、正義と節制の徳がそなわる ようにと行動しなければならないのだ。もろもろの欲望を抑制されないままに放置して おいて、それらを充足させようと試みながらそれはきりのない禍となるのだが―― そんな盗人の生活を送るようなことはしないでだ。なぜなら、 そのようなことをする者 は、他のどんな人間にも、また神にも、愛される者となることはできないだろうからだ。 というのは、そのような者は、誰とも共同することができないだろうし、そして共同の ないところには、友愛はありえないだろうからだ。

わかったかね、君、無秩序とも放埒とも言ってはいないのだよ。 ところが君は、賢い人だというのに、 そういったことにはどうも注意を払っていないように思われる。 いな、君は、幾何学的 な平等が、 神々の間でも、人間たちの間でも、大いなる力をもっていることに気がついていないのだ。それどころか君は、なにがなんでも余計に持つことに努めなければならないと考えている。これもつまりは君が、 幾何学の勉強をおろそかにしているからなのだ。

いつの場合でもぼくのする話は、人びとのご機嫌をとることを目的にしているのではなく、最善のことを目的にしているのだから。

ひとは不正を受けることよりも、むしろ不正を行なうことのほうを警戒しなければならない。また、ひとは何よりもまず、公私いずれにおいても、善い人と思われるのではなく、実際に善い人であるように心がけなければならない。