孟子(上)

仁者無敵

 

何をか浩然の気と謂う。曰く、言い難し。その気たるや、至大至剛にして直(なお)く、養いて害(そこな)うことなければ、則ち天地の間に塞(満)つ。

 

憶測の心は、仁の端(はじめ)なり。
羞悪の心は、義の端なり。
辞譲の心は、礼の端なり。
是非の心は、智の端なり。
凡そ我に四端有る者、皆拡(おしひろ)めて之を充(大)にすることを知らば、[則ち]火の始めて 燃え、泉の始めて達するが若くならん。
苟(いやしく)も能く之を充にせば、以て四海を保んずるに足らん

 

富を為さんとすれば仁ならず、仁を為さんとすれば富まず

 

人に財物をやることを恵といい、人に善を教えることを忠といい、天下のために立派な人材を得ることを仁といい、[これら三つの中で、最も尊くて難しいのが仁である。]だから、 天下をひと思いに人に与えてやるのは、恵の中でも最大なものではあるが、 いともたやすいことであり、天下のために立派な人材を見つけだす仁こそ、最も困難なことなのである。

 

まことの大丈夫とは、といえば、仁という天下の広い住居におり、礼という天下の正しい位置にたち、義という天下の大道を行なうもので、志を得て世に用いられれば、天下の人民とともにこの正しい道を行ない、志を得ないで民間におるときには、自分ひとりでの道を行ない、いかなる富貴もその心をとろかし乱すことはできず、いかなる貧賤でもその操を変えさすことはできず、いかなる威光や武力でもその志を枉(ま)げさすことはできぬ。こういう人こそ、まことの大丈夫というのである。