筋肉への果てなき渇望を抑えることができない。
「果てなき渇望」は、そんなボディビルダーたちの姿を描いたノンフィクション作品。
筋トレにのめり込んでいない人には「何言ってんの??」となるかもしれないが、
自らの筋肉を肥大させることが最優先事項となっている筋トレバカの方々には響く言葉がたくさんあるはず。
そんな筋トレバカに是非おすすめしたい一冊。
果てなき渇望 メモ
「世の中で何がおもしろいと言って、自分の力が日ましに増すのを知るほどおもしろいものはない」
これは三島由紀夫の言葉。
あの三島由紀夫もボディビルにのめり込んだのである。
「ボディビルダーは一種の病気、筋肉鍛錬依存症ですね。トレーニングしないと不安なんです。
僕の場合は、身体を鍛えることでいろんな社会のしがらみから救われていました。
ボディビルダーにとって減量や家族の犠牲、食事の苦労、社会性のなさなどは、それだけ自分がトレーニングに没頭しているという勲章ですよ。
突き詰めれば自慢話なんです」
ボディビルは特に難しいテクニックや運動神経を必要としない。
強い意志力と実行力さえあれば、程度の差こそあれ、必ず結果は肉体に現れる。
だからこそ喜びが大きかった。
ボディビルにのめり込むまで時間はかからなかった。
「陸上の世界では、11秒台で走っている選手が10秒フラットで走るのはいくら努力しても不可能なんです。
自分は、そんな時にボディビルと出会った。
ボディビルは、やればやるだけ、努力の分だけ必ず何らかの反応が現れるんです。
走る記録には限界があるけれど、筋肉を鍛えるのには限界がない。
バルクを得た後はディフィニッションやカットというように、いくつも磨く要素ができてくるんです。」
自分はただひたすらに大きくなりたい。
天から与えられた身体を、自分の意志の力で変えていく。筋肉を1センチ肥大させることで自分が神に近づけるわけではありませんが、少なくとも自分の肉体という小宇宙を創造することができる。
たとえ後遺症が襲ってきてもかまわない。
どんな手段を使っても、限りなく肥大した筋肉を手に入れたい。
ただ、それだけなんです。
ボディビルダーたちは、筋肉を大きくすることに対して満足を知らない。 筋肥大への想いが一線を越えてしまう-それがドーピングだ。
筋肉が劇的な変化を続けてくれるのは、おそらく32か33歳くらいまでだと彼は断言する。
「それまでに、なんとか吸気欲の身体をつくり上げたい。そのことしか頭にありません。」
阿部に残された時間は決して長くない。
筋肉のためには、すべてを捧げる覚悟だという。
「あなたはドラッグを使用しているのですか」
「アナボリック・ステロイドについてなら、イエス、オフコースだ。
プロとしてこの身体を維持し発達させるためには、ドーピングなしではやっていけない。
また、自分のタイトルを狙うライバルたちもステロイドを使っている。
ライバルたちが使っている以上は僕も使用する。
プロは試合で勝たなければいけない。
僕は家族を養っていかねばならない。」イエーツは堂々と答えた。
かつてオリンピア6連覇を果たしたドリアン・イエーツの言葉。
暗記科目は勉強する気にならなかった。
暗記ですませる科目は、本当の知力を必要としないからです。そんなことより、数式を解析したり読解力を試される科目が好きでした。
ボディビルダーには秀才が多い。
「ボディビルはおもしろいんです。
ボディビルは数学の方程式を解くのに似ている。
正しいやりかたで順序立てて解析すると、必ず正解にたどりつく。ボディビルは化学でもありますね。
いろんな要素を化合させると、まったく新しいものが現れる。知識を実行に移す喜びは学問と同じことだと思います」
「自分にとっては、フィットネスクラブでなくボディビルジムでなければいけなかった。
ファッション性やお手軽な気持ちでウエイトと向き合うような人たち、またそんなムードが蔓延している空間でトレーニングしたくなかったんです」
「ただやみくもに大きくなる、強くなるだけではない。
自然の産物である肉体を、各自の理想に向かって自分の意思の力でデザインしていく-ボディビルは精神作業でもあるわけです。
そういう意味では変身願望は強いですね。
とにかく、意志の力を働かせて今とは違うものになる。
このあたりはモダニズムの在り方と似たところがあります。」
崇高、孤高、克己といった言葉に魅力を感じます。
のどかに夢を語るのではなく、
それが実現困難なものであっても力を尽くして到達する努力を続けていきたいんです
彼は、常人の理解の越えたところにボディビルの目指す至高の境地があると考えている。
だから、世間のボディビルに対する偏見にもさほど興味がないという。
世間が彼をグロテスクと嗤うのなら、それでもいい。
むしろ世間の基準から大きく逸脱した肉体であるほうがうれしい。
気持ち悪いというのは褒め言葉でもある。
この肉体は自分のプライドを具現したものであり、この世に生きる証明だ。
副作用を怖がるのは、生命を懸け、あらゆる非難と偏見にまみれながらも、肉体を鍛えるという覚悟ができていないからだ。
そんな者たちの冷視など、阿部は怖くも何ともなかった。
「私は、文化や常識や道徳やルールに守られて価値を認められているのは脆弱だと思っています。
何を美しいと感じるかは文化や人によって違いますが、人間が国境や文化をこえて求めるのが力と強さ、美しさではないでしょうか。
そこでは一目見て普通とは違う過剰が、魂を揺さぶるはずです。
そう考える私ですから、ステロイドを使ったボディビルコンペティターになったのです。」
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