【フィリピン】プエルトガレラ旅行記

浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえる。

時計の針は5時30分を指していた。

旅をしていると早起きになる。

コップに水をなみなみと注ぎ、バルコニーに出る。

まだ朝日は登っていない。

洗濯物を取り込んでいると、隣の部屋の男性が部屋から出てきた。

そういえば、彼も僕と同じく今日、3月16日に帰国すると言っていた。

彼とは5日間、隣人の関係だった。

彼とはもう2度と出会うことはないだろう。

彼にはソウル大学(日本でいう東大)に通う1人息子がいる。

その息子に言った言葉を教えてくれた。

「仕事や趣味は変えられる。しかし奥さんは一度選ぶと変えられない。奥さんだけは慎重に選べ。」

プエルトガレラからバタンガスまでは、ボートで1時間。

最も早いボートは5:45のボートだ。

彼はそのボートに乗るらしい。

簡単な挨拶を交わし僕たちは別れる。

椅子に座り、水を飲む。 ぼーっと海を眺める。

今日はプエルトガレラ最終日。

ジムでの筋トレと宿の目の前のビーチで日焼け、ビリヤード場で愉快なフィリピン人たちビリヤードをする毎日だった。

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たくさんの人が、会うたびに「Hi AKI!」と声をかけてくれた。

こんなにも1つの街に滞在したのは今回が初めてだ。

2週間前に親友の松田とここに来たのが最初。

5日間ほど滞在して、2人で帰国した。

しかし僕は、プエルトガレラが恋しくて3日と経たずに帰って来てしまったのだ。

綺麗な海と、陽気なフィリピン人。

プエルトガレラは、マニラから4時間ほど。

日本から10時間ほどで来られる、素敵な街だ。

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この街は観光で成り立っている。

観光客の割合は韓国人50%、中国人20%、欧米人20%、その他10%といったところか。

韓国人は観光で来ているが、欧米人の多くは、ここで生活している者が多い。

「ボホール島が最高だぜ。」と教えてくれたオーストラリア人の彼も、ここサバンに1年ほど住んでいる。

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サバンに来る前は、タイ、カンボジアにそれぞれ3年ほど住んでいたそうだ。

彼のように、リタイアして余生をここサバンで過ごす欧米人がたくさんいる。

彼らのほとんどは独身だが、ここに来てフィリピン人の若く美人な女性と暮らし、中には子供をつくる男性もいる。

そのため、ここにはハーフの子供が多くいる。

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彼らの年金は、ここで働くフィリピン人男性の稼ぎよりもはるかに多い。

そのため、お金に余裕のある暮らしを求める女性は彼らと人生を共にすることを望む。

時刻は朝の6時を過ぎたところ。

「飛行機の時間は何時だったかな。」

カバンからMacBookAirを取り出す。

「関空に着くのが22時だから、17時くらいの飛行機だろう。」

Finderに保存しておいたe-ticketを開ける。

マニラ-台北 12:50

オーマイガッッ!!!!!!!

フライト時刻を間違えていた。

なんてことだ。

間に合うのか?

プエルトガレラからバタンガスへと向かう次のボートの出発時刻は7:45だ。

プエルトガレラからバタンガスまでボートで1時間。

バタンガスからマニラ市内までバスで2時間-3時間。

このバスのバタンガスにおける待機時間は20分-40分。

マニラ市内から空港までタクシーで30-50分。

最短で11:25に空港に着く。

最長で13:15に空港に着く。

後者は完全にアウト。

リスキーすぎる。

港で働いている人に今の状況を話す。

すると「バタンガスからマニラまではタクシーを使え」という。

バスは遅いがタクシーは早い。

確かにそうだ。 しかし、いかんせんタクシーは高いのだ。

バタンガスからマニラまで、バスは167peso(380円)であるのに対し、タクシーは3000ペソ(6900円)。

「冗談じゃない。タクシーを使うなんてバックパッカーの恥だ。」

しかし航空券を買い直すための金額に比べたら安い。

それ以前に問題があった。

あろうことか僕は900peso(2100円)しか持っていないのである。

「キャッシングすればどうにかなるか?」 そんな考えが頭をよぎったが、否。

僕の楽天カードは、利用限度額の20万円に達しようとしていたのだ。

昨日確認したが、利用可能残高は2300円。

これではキャッシングをしたところでタクシーには乗れない。

バスに乗るしか選択肢はない。

考えたって仕方がないので、ボートの出発時刻までゆっくりと待つことにした。

もちろんフライト時刻には間に合うよう最善の努力はする。

しかし間に合わなかったとしてもそれは失敗ではない。

それは「飛行機に乗り遅れる」という、僕にとって人生初の経験になる。

旅を続けていると、ポジティブになる。

ようやく僕が乗るボートが港に来た。

時刻は8:00。

15分遅れている。

さすがフィリピン。

ボートに乗りこみ、Podcastで「人生に響くインタビューマガジン キクマガ」を聴く。

第一線で活躍する人へインタビューする番組。

バックナンバーが500回分ほどあるので、気になったものからガンガン聞いている。

途中から眠ってしまった。

目を覚ますと船はバタンガスの港へ着いたところだった。

船から降りると、客引きの男が声をかけてくる。 「タクシー?」

調べたところでは、バタンガスからマニラまでのタクシー料金は3000ペソ(6600円)。

「手持ちの900ペソ(2000円)と、キャッシングで引き出せる金額約800ペソ(1800円)の合計1700ペソ(3800円)しかないので、タクシーには乗れない。マニラまで誰かとタクシーをシェアできないか。」

と伝える。

しかしタクシーに乗りたいのはどうやら自分1人のようで、シェアできそうにない。

バス乗り場に向かおうとするが、男はしつこく着いてくる。

「OK。なら2500ペソ(5500円)にしてやる。」

「いや、1700ペソ(3800円)しかないって言ってるやん。」

「OK。特別に1700ペソ(3800円)でいいぜ。」

「Talaga(本当に!?)」

少し覚えたタガログ語で聞き返す僕。

「これはもしかしたら間に合うかもしれない。」

そんな期待を抱きながら、男に連れられ、建物の外に出る。

そこには1台のタクシーが止まっていた。

運転席に座る男は、ピーナッツのお菓子をボリボリと食べている。

声をかけてきた男が運転手に何かを話し始める。

「OK。900ペソ(2000円)を俺に払って、800ペソ(1800円)を後でATMでおろしてこいつに払え」

と客引きの男は言う。

「本当に1700ペソ(3800円)でOKなのか。」

僕は男に900ペソ(2000円)を払った。

残りの手持ちは60ペソ(130円)になった。

男は900ペソ(2000円)を何やら周りの仲間たちに配っていた。

タクシーは発車する。

「Bad Guys.」

運転手の彼は言った。

「悪い奴らだ」と。

「しまった。」

とっさに僕は気づいた。

しかし、もう遅かった。

紹介料としてあのタチの悪い連中に、僕は900ペソを払ってしまったのだ。

この運転手の手取りは800ペソ。

「Why I have to pay to you?」

そう言えばよかった。

1700ペソ(3800円)でマニラ空港まで行けることに気をとられて、何も考えていなかった。

サバンへの1週間の滞在で、僕は完全に平和ボケしていた。

この運転手が男とどういう話をしたのかは分からないが、通常3000ペソ(6600円)のところを、800ペソ(1700円)で僕を乗せることになったのは確かだ。

僕は彼に900pesoを支払うべきだったのだ。

彼はやむなくといった表情で車を走らせ続け得る。

「Where are you from?」

「What do you do?」

「Do yo have a wife?」

僕らは、他愛もない話を続ける。

彼の名はRussel。

Russelは、マニラの近くのアンティポロという街に妻と子供三人と共に住んでいる。

反対車線に銀行が見えた。

ATMでお金を下ろすために車は止まる。

慎重に左右を確認し、黒い排気ガスをかき分けながら、車の間をすり抜ける。

ATMにカードを差し込み、キャッシングを試みる。

しかし、なぜかお金を引き出すことができない。 使用可能残高は2300円のはずだ。

ATM利用手数料の200ペソ(460円)を差し引いても、800ペソ(1700円)は引き出せるはずだ。

なぜだ。 1300円と2300円を見間違えたか?

「I couldn’t」

Russelに言う。

ヤバい。

万が一キャッシングができなかった場合、俺には払うお金がない。

60ペソ(130円)しかない。

「もう少し先にまた銀行があるからそこでもう一回挑戦するんだ」

そう言ってRusselは再び車を走らせる。

銀行の脇に車は停まる。 ATMにカードを挿し込む。

しかし、キャッシングができない。

「I couldn’t」

僕は再びRusselに言う。

「しばらく銀行はないから、マニラ空港の手前の銀行でもう一回試すんだ。」

タクシーはマニラ空港に向かって進む。

が、車はなかなか進まない。

マニラ周辺では、交通渋滞は深刻な問題だ。

ひどい場所だと、車は1分で10mも進まない。

「これは間に合わないな。新しい航空券を買おう。」

それより問題はタクシー代だ。

どうやらキャッシングはできそうにない。

僕はラッセルに言った。

「本当に申し訳ないけれど、お金を払えそうにない。お金の代わりに僕の持ち物でタクシー代を払うことはできないか?」

グレゴリーのカバン、パタゴニアのパンツ、アンカーのモバイルバッテリー、NewEraのキャップ、全てを合計すれば13000peso(3万円)になるとも説明した。

「No. I don’t need」とRusselは言う。

ものよりも現金が欲しいのは当たり前だ。

そんなやりとりを繰り返しているうちに、とうとうRusselは

「It’s OK. I don’t need money」と言った。

僕の持ち物も要らないと言った。

申し訳なさが募りに募った。

僕はクレジットカードが使えないと分かった地点から空港まで歩こうとした。

空港まで6km。歩けない距離ではない。

しかし僕が歩くと言うと、Russelは近くまで送ってやると言ってくれた。

僕はお金を払っていないのに。

Russelとの会話の中での「I have a heart」という言葉が僕の記憶に強く残っている。

「悪い奴らもいるけれど、僕は困っている君を助ける。僕は暖かい心を持っている。」Russelはそう言った。

タクシーにはそれぞれ5種類の番号が振られており、それぞれが平日の1日、街を走ってはいけないことになっている。

僕がいま乗っているRusselのタクシーは、まさに今日の木曜日は走っていけない日だった。

警察に見つかると罰則がある。

そのため、「空港近くで他のタクシーに乗り換えさせてやる」と言う。

Russelは他のタクシーをとめて、僕を空港まで送るように説得してくれた。
その運転手にお金を払ってくれさえした。

僕はお金を払っていないのに。

僕はRusselに感謝の意を伝え、握手をした。

僕は、次にマニラに行く際は彼を訪ねようと決めた。

そして僕は無事にマニラ空港に辿りつくことができた。

日本に帰ることができた。

近いうちにまたフィリピンに行こう。