仕事熱心だから「仕事ができる」
分林が三宅を欲しがったのは、三宅は非常に仕事熱心だったからだ。 仕事熱心だから当然、彼の手がける仕事はどんな難しいものでも必ず成功した。 「仕事ができる」人というのは皆、そういうものだ。何か特別な才能があるとかないとかという問題ではない。
分林が学生時代に能楽でアメリカ縦断旅行を決断し、それを決行したときには、 この気持ちが分林の中でさらに大きく醸成されることになった。「何とでもなる。死ななかったら大丈夫だ」。「人間、メシさえ喰っていれば生きられるだから大丈夫だ」。
戦後はますます食べものがなくて困る時代になった。 闇市から買ったお米を見つからないように、足や胴に巻き付けてヤミ米を売りに来ていた人のことを分林は今でも覚えている
太平洋の大海原。 その広く果てしない航路を船がゆったりと航行していく。行けどもゆけどもそこには海しかない。 気が遠くなる広さだ。世界の広さを分林は肌身で実感した。 それと同時に急に心に余裕ができた気がした。 精神的に強くなった、というのか、開き直りの境地に似ていた。悔いのない人生を送るにはどうしたらいいか—。
それからというもの、とにかく半年間はがむしゃらに仕事をした。夜12時前に事務所を出たことはないほどだった。
朝9時にはセールスのために事務所を飛び出して、 夜6時頃に帰社するまでとにかくセールス先の会社を回った。 帰社してからは夜12時前までずっと提案書の作成をこなした。それを約半年間続けたら、その年度末には再び200%のセールスを達成することができた。 このときの体験は今でも大きな糧になったと感じている。
やはりビジネスの世界にいる人は、一度は肉体的・精神的な限界にまで挑戦してみることが大事。そういう体験を通じて、ビジネスマンとして大きく成長することができるし、また人間的にも強くなれると思うからだ。こうした経験をしている人としていない人では、仕事上の実力には非常に大きな差ができると考えている。
従って企業は、顧客から「リピート」がないような商売はするべきではない、と分林は社員に言っている。